2010年9月21日火曜日

『恋』──日本の長編にありがちな枚数稼ぎの「情痴小説」

 『恋』小池真理子(新潮文庫)
 
 
 かなりの長さで、物語が破綻なく書かれてはある。一見「力作」である。しかし、これを外国語、たとえば、英語やフランス語に翻訳し、世界に出せるか? 出したら、たんなる三文小説だろう。日本の長編小説にありがちなパターンであるが、無駄な描写でいたずらに枚数を稼いでいる感がある。本作は400字詰め原稿用紙に換算して1000枚ほどだと思うが、「情報量」は100枚程度のものである。 

 どの登場人物も、「物語」を語るための「道具」でしかなく、実際に生きている感じがしないし、共感もできない。本作をミステリーとして引っ張っていくサスペンス=「秘密」は、最後まで意味ありげなのであるが、その「秘密」は意外でもなんでもなく、誰でも予想のつく凡庸なものである。 

 70年時代とその時代を生きた人々を題材にしたということであれば、藤原伊織の『テロリストのパラソル』の方が、文学としてリアリティがある。 
  
 「浅間山荘事件」が時代背景としてあり、まるで関係あるかのように書き始められているが、あの「歴史的な事件」について、たとえフィクションでもなにか作者なりの見方があるのか、そういう興味で読み進んでいったが、結局、それは、「アクセサリー」にすぎなかった。作者がその世代に属し、それに拘りたいのだろうが、実際には、そこまで踏み込んでいない。ただ、これを情痴小説と見れば、それなりの鑑賞には耐えうる。 


2010年9月14日火曜日

『悪人』──地獄のない地獄

樹木希林を除いて、本作の登場人物は、どれも抽象的である。いかにも「現代日本の地方に生きる若者の孤独」を描いたかのようでありながら、それは、ニュースや、それこそ、ネットで「見たかのような」図である。それぞれの俳優が、いかに、悲しみを表現しようと、それはひとつの「典型」にすぎなくて、リアルなものはなにもない。
というのも、リアルとは、その人にしか持ち得ない、その人の肉体でしか説明できないなにかであるからだ。
ここにあるのは、ただの風俗である。それも、風俗という名の抽象でしかない。それにかろうじて実態を与えているのは、俳優、樹木希林の存在である。この人は、いかなる抽象をも拒む肉体を持っている。それは俳優としての資質である。この人のように、まず抽象を拒むことから作品というのは始まるのである。
深津絵里が、カナダの映画祭で賞をとったそうであるが、やはり抽象であることに変わりはない(むしろ賞は、樹木希林に与えられるべきであったであろう)。こういう実態のない人物を演じていて気持ち悪くならないのだろうか?
だいたいが、原作の吉田修一自体が、そういう「典型としての風俗」を描く作家である。ここには、車谷長吉が達したような「地獄」は見あたらず、どんな事件が起きても人は心を動かされない。

2010年9月10日金曜日

『脳がヨロコブ生き方』──好奇心こそ宝

『脳がヨロコブ生き方』(茂木健一郎著 ヒカルランド 2010年8月刊) 

 自己啓発系の著書が多いように思われる茂木健一郎であるが、本書は題名はその流れながら、その系統の本ではない(出版社は、氏の「デビュー作」を出してくれた編集者が独立して作った会社だそうで、「恩返し本」のようである。そのためか、氏の「知名度の高い本」の題名を利用して売ろうとしているのだろうが、それはむしろ逆効果になっているかもしれない)。これは、氏のブログをまとめた本であるが、ありがちな、私生活、それも、一般の読者には縁のないような、「セレブな日々」を垂れ流しに綴ったものでもない。

 いわば、日々の思考のエキスのようなものが、加工を加えず自然のままに綴られている。それゆえ、なにかのテーマのもと、全体を構築していくような文章ではない。意外にも詩的な言葉が美しく流れていく。

 そのなかに、われわれがインスパイアされるものが多々ある。そこには氏の、フェアな姿勢が自ずと現れている。体系的な哲学書を読むような充実感はないが、頭を働かせるとっかかりにはなる。氏のルーティンに添うことによって、われわれ読書は、おのれのルーティンを計画できるのではないか。

 文章には、人格のすべてが表れる。本書から窺われるのは、氏の謙虚で良心的な人柄であり、好奇心こそ宝という思想のベースである。

 1日1日のブログを収録したものではあるが、日付はない。それだけでも、どこか爽やかだ。



2010年9月7日火曜日

『読んでいない本について堂々と語る方法』──しかし本書だけは読了してしまう(苦笑)魅惑の書

『読んでいない本について堂々と語る方法』(ピエール・バイヤール著 大浦康介訳 筑摩書房 2008年刊) 


 題名を見て、正直なハナシ、「そんな方法があれば……」と、「ワラにもすがる思いで」(笑)、本書を手に取った人も多いのではないか。なにを隠そう、私もその1人である。本の体裁を見ればわかるとおり、本書は、「実用書」ではない。れっきとしたテクスト論書である(ポストモダン系)。それも、著者の専門である、精神分析理論をもとに「論じている」。


 しかし考えてみれば、精神分析は、読書体験を論じるのに、かっこうの手法である。本書の読者は、あの、きわめてあいまいな、読書という体験を、すっきりと分析してもらえ、しかも、「そうか、これからも、しゃかりきになって読む必要はないんだ」と元気づけられる。そのうえ、矛盾するが、どんな難解な本にも挑戦してみようという勇気も与えられる。

 「読まない本について堂々と語っている」人たちの例が、巷のハウ・ツー本のような、そのへんのオジサン、オバサンではない。ポール・ヴァレリーだったり、モンテーニュだったりする。そうか、あの偉人も、そうであったか……。

 

 世のビジネス書は、速読だの多読だの、ごくろうなことである。これは、ひとえに、「読書体験」たるものの、認識が浅いからである。


 重箱型学者を嗤っているかのような胸のすくような本を書くのは、さすが、フランス人である。しかし、翻訳書であるかぎりは、どんなにすばらしい内容も、訳文ひとつでつまらなくもなる。本書がおもしろいのは、当然ながら、訳がいいからである。


 頭がよくなった(実際なっていると思う)ような気分になれて、すいすい読み進めてしまえて、これからは読んでない本についても堂々と語れる……こんな本を「誰にも教えたくない」(笑)と思うのは、どこかのレビュアーさんも書かれていたとおりである。バイヤール+大浦康介訳本は、ほかのも読んでみたくなる。




2010年8月3日火曜日

『ソルト』──マット・デイモンを超えた?

 今どき、CIAとかスパイとか言っても、どうせいつものパターンだろうと映画館に向かったが、一応「か弱き女」のアンジェリーナ、ここまでヤルかと、驚くやら感心するやら。

 つい先日、アメリカとロシアで、ほんもののスパイ交換劇があったばかりだが、そういうものも吹っ飛んでしまうほど、ハードさがすごい。しかも、この時代に、なんでスパイ?とか思うが、なるほど、そういうモチベーション、状況があったのかと、これまた納得。

 アンジェリーナのタフさに比べたら、ジェイソン・ボーンのマット・デイモンなど、なにもしていないに等しい。どんなに絶望的な状況でも、サバイバルできないこともないかもな、と、スパイでもないのに、希望を抱かせられる(笑)。

 暑気払いに、ぜひ、本作を観に映画館に足を運ばれることをオススメします。

2010年7月24日土曜日

シンデレラは、オバサンだけにしてほしい

 アメリカでは、11歳の女の子が、タレントスカウト番組に出るつもりで、Webカメラの前で、いわゆるワルのいかした女のマネをして、四文字ワードを乱発し、挑発するシナを作って、YouTubeかなんか、そういったネット上のサイトに投稿した。これを見ただけでも、かなりお馬鹿な女の子ということがすぐわかり、ネット上のちょっとしたワルなら「からかってやろう」という気になったのかもしれない。

 あれよ、あれよというまに、ネット中を、その動画がめぐり、どこのどいつかも探られて、実名、電話番号なども晒された。これでもまだ覚めない女の子は、「アタシがパーフェクトだから、嫉妬された」などと、またネット動画で言ったもんだから、さらに、攻撃にさらされ、「おまえはブスだ!」などと、悪口を言われ、「2ちゃん」ならぬ、「4ちゃん」(アメリカでは、「4ちゃん」というらしい。どっちが先かはわからない)の餌食になってしまった。

 それでも、知らん顔を決め込めば、どうということもなかったのだが、そこへ、ウェブカメラに、アホな父親が、娘が泣いて抗議している背後に登場し、「おまら! サイバー・ポリスに逮捕させるぞ! このドアホウが!」とキレまくったので、さらに「笑いもの」になってしまった。

 その一部始終を「記録」しているサイトもある。さらに、それらをパロった人々の動画もあまた投稿されている。
 ……ったく、なんて時代になってしまったんだ。この、ハンドル名、ジェシー・スローター(11歳)の母親曰く、「娘はパソコンとウェブカメラを持っているけど、彼女の友だちもみんな持っている」。それで、いろいろ、カメラの前でシナを作ったりして、おとなのマネをして、プチ・セレブ気取りである。アメリカでは、そういうのが「普通」なのか? ただ、こういうお馬鹿な一家は、世界中、どこにでもいるだろう。ネットはそういうことまで、あぶり出してしまうんですね(笑)。一昔前の日本なら、『スター誕生』で、予選落ちで終わったような少女である。

 イギリスのタレントスカウト番組で、スーザン・ボイルは、いきなり世界的な歌手になった。アメリカにも、そういう番組があるらしい。でも、いきなりスターになるのは、苦労を積んだオバサンだけにしてほしい(笑)。

http://knowyourmeme.com/memes/jessi-slaughter-you-dun-goofd-the-consquences-will-never-be-the-same


行わけ詩?

ボルヘスは、詩の内実は、リズムだと言っている。そういうとき、行わけが必要になるんです。自分は、T.S.エリオットから詩を学んでいるんで、日本の詩人のみなさんが、散文がどうこう、行わけがどうこうと、侃々諤々している意味がまったくわかりません。だいたい、この分類は、間違っている、散...